Dr.HARUDr.HARU
一ノ瀬の日々。
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「さようなら」
もう、会うことも無いかもしれないけど。
別れの言葉も、その後に続いた小さな小さな呟きも。何でも無いことのように、いつもの表情で、あっさりとファイは言ってのけた。
「風邪に気を付けてね。…君は風邪なんて引きそうに無いけど」
そう言ってにっこりと笑う顔も、腹立たしい程、見慣れたもので。
「……ふざけるなよてめぇ」
向かい合うファイとは正反対に、眉間にくっきりと皺を寄せ、青筋まで浮かべていそうな表情を浮かべながら。舌打ちまでしかねない勢いで悪態をついてしまうのは、致し方ない事だろう。
「別にふざけてはいないけど?」
その態度に腹が立つのだと、一体何度繰り返せば、こいつは理解する事が出来るのだろうか。
「会う気がねぇってことか」
「だって新しい生活が始まったら、黒様だってオレの事考えてる暇なんて無いでしょ?」
ひょうひょうとよく言ってのけるものだと、黒鋼は少し呆れてしまった。
表情はいつもと変わらないけれど。
ガラガラと引いてきた大きなトランクを握る手は、さっきからずっと、小さく震えているくせに。
「人の事を勝手に決めつけるな」
「だってそうなるよ、きっと」
返ってくる言葉はとてもとてもファイらしいもの。その‘らしさ’を、いつかは捨てさせることが出来るのかと、いつも自分は奮闘していたと言うのに。
「……てめぇはいつまで経っても回りが見えないんだな」
最後の最後までこうなのだから、本当に、世話がやける。
「なんのこと?」
「なんでもねぇよ」
忘れられるのが怖くて、自分から永遠の別れを告げる。自己防衛のようなその態度が、どれだけ相手を傷付けるかなど、こいつにわかりはしないのだ。
「……夏だ」
「え、何?」
「夏にまた、帰ってこい」
その言葉は、ファイにはとても予想外なものだったらしく。
「なんで?だって迷惑でしょ?」
信じられない、というように否定してくる言葉を、遮って。
「いいから四の五の言わずに帰ってこい」
命令するように、言いつけた。
「……いいの?」
「だからそう言ってるだろうが」
空港にはたくさんの人だかり。流れ行く人の混沌の中で、逆らえぬ時の流れに身を任せる人々の中の、片隅で。
「夏にまた、会いに来い」
それでも流れに逆らってでも、引き留めなければならないもの。
「……わかった」
相変わらずの笑顔で、それでも白い手の震えが止まったことを確認して。
歩きだしたファイが、人波に呑まれて消えゆくまで、後ろ姿を見送った。
たとえ道を違えたとしても、お互いに変わることは無いと、かたくなに信じて。
―不安なのは、自分も、同じなのだ。
**********
いよいよ明日上京だよ記念小話でした。
もう、会うことも無いかもしれないけど。
別れの言葉も、その後に続いた小さな小さな呟きも。何でも無いことのように、いつもの表情で、あっさりとファイは言ってのけた。
「風邪に気を付けてね。…君は風邪なんて引きそうに無いけど」
そう言ってにっこりと笑う顔も、腹立たしい程、見慣れたもので。
「……ふざけるなよてめぇ」
向かい合うファイとは正反対に、眉間にくっきりと皺を寄せ、青筋まで浮かべていそうな表情を浮かべながら。舌打ちまでしかねない勢いで悪態をついてしまうのは、致し方ない事だろう。
「別にふざけてはいないけど?」
その態度に腹が立つのだと、一体何度繰り返せば、こいつは理解する事が出来るのだろうか。
「会う気がねぇってことか」
「だって新しい生活が始まったら、黒様だってオレの事考えてる暇なんて無いでしょ?」
ひょうひょうとよく言ってのけるものだと、黒鋼は少し呆れてしまった。
表情はいつもと変わらないけれど。
ガラガラと引いてきた大きなトランクを握る手は、さっきからずっと、小さく震えているくせに。
「人の事を勝手に決めつけるな」
「だってそうなるよ、きっと」
返ってくる言葉はとてもとてもファイらしいもの。その‘らしさ’を、いつかは捨てさせることが出来るのかと、いつも自分は奮闘していたと言うのに。
「……てめぇはいつまで経っても回りが見えないんだな」
最後の最後までこうなのだから、本当に、世話がやける。
「なんのこと?」
「なんでもねぇよ」
忘れられるのが怖くて、自分から永遠の別れを告げる。自己防衛のようなその態度が、どれだけ相手を傷付けるかなど、こいつにわかりはしないのだ。
「……夏だ」
「え、何?」
「夏にまた、帰ってこい」
その言葉は、ファイにはとても予想外なものだったらしく。
「なんで?だって迷惑でしょ?」
信じられない、というように否定してくる言葉を、遮って。
「いいから四の五の言わずに帰ってこい」
命令するように、言いつけた。
「……いいの?」
「だからそう言ってるだろうが」
空港にはたくさんの人だかり。流れ行く人の混沌の中で、逆らえぬ時の流れに身を任せる人々の中の、片隅で。
「夏にまた、会いに来い」
それでも流れに逆らってでも、引き留めなければならないもの。
「……わかった」
相変わらずの笑顔で、それでも白い手の震えが止まったことを確認して。
歩きだしたファイが、人波に呑まれて消えゆくまで、後ろ姿を見送った。
たとえ道を違えたとしても、お互いに変わることは無いと、かたくなに信じて。
―不安なのは、自分も、同じなのだ。
**********
いよいよ明日上京だよ記念小話でした。
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